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『春の嵐』と「ジャーナリズムの視点」
 先日、ほぼ同じ世代の友人とその友人たちと酒を飲み、食事をする機会に恵まれた。直接的な友人とは1年に1回ぐらい、その友人たちとは会うのは2回目か3回目、約5年ぶりという関係である。私は、去年ぐらいから自分を捕らえている設問がありそれを口にしてみた。それは「あなたにとって90年代とはどういう時代だったか?」というものだったのだが、あまり親しい間柄とはいえない友人の友人たちの一人から私の問いに対して「十年を区切りとする〜年代というのはジャーナリズムが都合良く整理し総括するために用いる『専門用語』のようなもので自分自身にフィットさせて考えるのは不可能であり、そのような問いには答えられない」という返答をもらった。なるほど、理解できる反応である。それこそ約二十年前、90年代初頭の十代後半の私であったら同じように答えていただろう。「〜年代」という「大文字」の思考に対しての強い抵抗感が私にはあった。しかし私は変わった。意図的に自分を変えようとしたのだ。このことは考えるに値するかもしれないと思ったすぐ後、ヘルマン・ヘッセの『春の嵐』(高橋健二訳、新潮社)のある箇所が急に思い出された。その文庫本を見つけ出し、今ここにいる。

 『春の嵐』の主人公、音楽家のクーンは彼に別の誰かを愛することが永遠にないと思わせる女性ゲルトルートを友人のムオトに奪われ、続けて尊敬する父親の死去にも遭遇し、その2、3日後「精神的弛緩の状態で」かつてのラテン語学校の恩師であり、現在は隠居し聖書の研究をしているローエ先生の元を訪ねる。ローエはクーン(=「私」)にいう。

《「・・・君は、遺憾ながら知識階級の人の間では毎日のように出くわす流行病にかかっています。医者はむろんそれについては何も知らない。それは背徳病と似通っていて、個人主義、あるいは妄想的孤独と呼んでもいいだろう。モダーンな書物にはそれが充満している。君の心にも、『自分は孤立している、いかなる人間も自分には関係がない、いかなる人間も自分を理解しない』という妄想が忍びこんだのです。そうじゃありませんか」
「だいたいそうです」と、私は驚いて認めた。

(中略)

「でも、どうやってそういうふうにしたら、いいんでしょう? 誰だってまず自分自身のことを考えるでしょう」
「それに打ち勝たなくちゃいけない。自分の幸福に対しある程度無関心にならなくてはいけない。自分なんかなんだ、と考えることを学ばなければならない。それに役だつ手段がただ一つある。君は、自分の幸福より相手の人の幸福が重大だというほどに、誰かある人を愛する修業をしなればならない。といって、恋をせよというのじゃありませよんよ!
 そりゃ反対です」
「わかります。でも、いったいそれを誰に試みたらいいでしょう」
「手近から、友達や身内から始めなさい。まずおかあさんがいる。おかあさんは多くのものを失い、一人ぼっちで、慰めを必要としている。おかあさんの世話をし、味方になって、頼りになるようにやってみなさい」》(P.146〜148)

こういわれたクーンはローエの助言が「宗教問答書や堅信式の準備授業の味」がして「嫌気と軽蔑とを覚えた」にもかかわらず、不仲だった母親と住もうとし、世話をし理解しあおうと努力する。
 私にとって『春の嵐』の重要な箇所はメインストーリーであるクーンの失恋よりこのクーンがローエに助言され母親を愛そうとするエピソードであって、要するにローエはクーンに「外に出ろ」といったということなのだろう(母親はクーンにとっての絶対的な世界である音楽の仕事にクーンがついていることについて、それまでずっと不信感を持っていた)。

 「〜年代」も海外で日々起こる戦争や内紛や虐殺も、経済流通のシステムも、かつての私には自分の外側にあるように思えた。私はかつては内側にいつづけたかった。音楽が好きな連中とローリング・ストーンズやジャズの話だけを、映画が好きな連中とゴダールや小津の話だけをしていれば楽だったろう。しかし私は外に出たかった。自分の言葉が通じない人達と話をしたかった。そのために私は「ジャーナズリムの視点」を獲得しようとし、「あなたにとっての二十代とは?」とは問わずに「90年代とは?」と問いた。そのことは特に、誇るには値しないことかもしれない。しかし、その詳細において間違いを犯すことがあったとしても、意図的に自分を構築していかなければ死を選ばずに現在に至った意義も見えてこないだろう。人類最期の五百年に自分はいるのかもしれないが、私が死んでも世界は続くのだ。

文=戸田裕大(カノコト)
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